介護職が喀痰(かくたん)吸引や経管栄養を行うには、喀痰吸引等研修を修了して都道府県から認定証の交付を受け、登録を受けた事業所で働く必要があります。研修には第1号・第2号・第3号の3つの課程があり、対象になる利用者と、修了後に行える行為の範囲が違います。
この記事の要点は次の3つです。
- 3つの課程の違い:第1号と第2号は不特定多数の利用者が対象で、第1号は5つの行為すべて、第2号は実地研修を修了した行為だけを行えます。第3号は在宅の重度障害のある方など特定の利用者が対象です
- 研修だけでは行えない:研修の修了に加えて、都道府県への認定証の申請と、登録を受けた事業所での勤務がそろって初めて業務として行えます
- 求人票で確かめること:事業所が登録を受けているか、実地研修をどこで受けられるか、受講費用と研修時間の扱いの3点は、応募前に質問しておくと入職後の予定が立てやすくなります
求人票の「喀痰吸引研修受講支援あり」「医療的ケアあり」といった記載を見て、どの研修を指すのか、自分は受ける必要があるのかで迷う方は少なくありません。この記事では、制度の決まりを法令と厚生労働省・都道府県の資料で確かめながら、介護の仕事を探す人が判断に使える形で整理します。
喀痰吸引等研修とは?介護職が受ける理由は
喀痰吸引等研修は、介護職員などが医師の指示のもとで喀痰吸引と経管栄養を行うために必要な知識と技能を身につける研修です。修了すると、都道府県から「認定特定行為業務従事者」として認定を受けられます。
喀痰吸引や経管栄養は医行為にあたり、もともとは医師や看護職員が行うものでした。2012年4月1日に施行された社会福祉士及び介護福祉士法の改正で、介護福祉士と一定の研修を受けた介護職員等が、一定の条件の下でこれらの行為を行えるようになりました(厚生労働省「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度について」)。
対象となる行為は、社会福祉士及び介護福祉士法施行規則の第1条で次の5つに限られています。
- 口腔内の喀痰吸引
- 鼻腔内の喀痰吸引
- 気管カニューレ内部の喀痰吸引
- 胃ろう又は腸ろうによる経管栄養
- 経鼻経管栄養
厚生労働省の資料では、対象となる施設・事業所の例として、特別養護老人ホーム、老人保健施設、グループホーム、有料老人ホーム、通所介護、短期入所生活介護、障害者支援施設、訪問介護、重度訪問介護などが挙げられています。医療機関は対象外です。夜間に看護職員がいない時間帯がある施設や、在宅で医療的ケアが必要な方を支える訪問系の事業所では、介護職員がこれらの行為を担う場面があります。
第1号・第2号・第3号研修は何が違う?
第1号と第2号は不特定多数の利用者を対象にした課程で、基本研修は同じ内容です。違いは実地研修の範囲で、第1号は5つの行為すべてを修了し、第2号は修了した行為だけが認定されます。第3号は特定の利用者に対象を限った課程です。
研修の中身は、社会福祉士及び介護福祉士法施行規則の別表第一〜第三に定められています。
| 課程 | 対象となる利用者 | 基本研修 | 実地研修 | 修了後に行える行為 |
|---|---|---|---|---|
| 第1号研修 | 不特定多数 | 講義50時間+演習 | 5つの行為すべて | 5つの行為すべて |
| 第2号研修 | 不特定多数 | 講義50時間+演習 | 一部の行為を選んで修了できる | 実地研修を修了した行為だけ |
| 第3号研修 | 特定の利用者 | 講義と演習で合計9時間 | 医師等が修得したと認めるまで | その利用者について修了した行為だけ |
第1号・第2号の基本研修は、講義が合計50時間です。演習は5つの行為をそれぞれ5回以上と、救急蘇生法を1回以上行います。実地研修の回数は、口腔内の喀痰吸引が10回以上、それ以外の4つの行為がそれぞれ20回以上です。講義・演習・実地研修のそれぞれで、研修機関が修得の程度を審査します。青森県の研修のように、講義の後に筆記試験を行う形が一般的な審査の方法の1つです。
第2号研修は、たとえば気管カニューレ内部の喀痰吸引の実地研修を行わずに修了した場合、その行為は認定に含まれません。勤め先の利用者に必要な行為が何かによって、どちらの課程が合うかが変わります。
第3号研修は、在宅で暮らす重度障害のある方など、特定の利用者に必要な行為に限って学ぶ課程です。基本研修は講義8時間と演習1時間の合計9時間で、実地研修はその利用者のもとで、医師や看護師などの評価で必要な知識と技能を修得したと認められるまで行います。修了しても、ほかの利用者に同じ行為を行えるわけではありません。重度訪問介護などで特定の方を担当する場合に選ばれる課程です。
研修を修了したら、すぐ喀痰吸引を行える?
修了しただけでは行えません。都道府県に認定証の交付を申請し、喀痰吸引等を行う事業所として登録を受けた職場で、医師の指示と看護職員との連携のもとで行うことが条件です。
東京都福祉局の案内では、介護職員が喀痰吸引等を行うために必要なこととして、次の3つを挙げています。
- 喀痰吸引等研修を修了すること
- 都道府県から認定特定行為業務従事者認定証の交付を受けること
- 登録特定行為事業者として登録された事業所で働くこと
事業所の側にも条件があります。施行規則では、医師の文書による指示を受けること、医師や看護職員が利用者の状態を定期的に確認して介護職員と情報を共有すること、実施内容を記載した計画書と実施状況の報告書を作成すること、急変時に医師や看護職員へすぐ連絡できる方法を決めておくことなどが求められています。
つまり、同じ研修を修了した人でも、勤め先が登録を受けていなければ喀痰吸引等を業務として行うことはできません。転職先で医療的ケアに関わりたい場合も、関わりたくない場合も、応募先の事業所が登録を受けているかは事前に確かめておきたい情報です。
介護福祉士や実務者研修の修了者は、研修を受け直す必要がある?
介護福祉士の養成課程や実務者研修で「医療的ケア」を修了した人は、基本研修にあたる学習を終えています。喀痰吸引等を行うには、職場などで実地研修を修了する必要があります。
実務者研修のカリキュラムには、喀痰吸引と経管栄養を学ぶ「医療的ケア」が含まれています。実務者研修の科目と取得期間は実務者研修の費用と取得期間で整理しています。ただし、実務者研修を修了しただけで喀痰吸引等を行えるようにはなりません。実際の利用者のもとで行う実地研修が別に必要です。
介護福祉士の場合は、2016年4月1日から喀痰吸引等が介護福祉士の業務として位置づけられました。登録喀痰吸引等事業者として登録を受けた事業所は、医療的ケアを修了していて実地研修を修了していない介護福祉士に対して、実地研修を行うことになっています。実地研修を修了した行為は、介護福祉士の登録事項になります。公益財団法人社会福祉振興・試験センターでは「実地研修を修了した喀痰吸引等行為」の登録申請を受け付けています。介護福祉士の仕事の中で喀痰吸引等がどう位置づけられているかは介護福祉士の仕事内容と1日の流れでも解説しています。
介護福祉士でない人が実務者研修を修了している場合は、喀痰吸引等研修の基本研修の一部を免除できる扱いがあります。たとえば青森県の令和8年度の喀痰吸引等研修では、「医療的ケア」の履修者は基本研修の講義50時間を免除できるとしています。免除の範囲や必要な書類は都道府県や研修機関によって違うため、受講先の案内で確認してください。
受講にかかる期間と費用は、どう確認する?
期間と費用は研修機関や都道府県によって違います。共通しているのは、実地研修を行う現場を確保する必要があることで、勤め先が実地研修の場を用意できるかが受講しやすさを左右します。
第1号・第2号の基本研修は講義だけで50時間あり、演習と筆記試験を経て実地研修に進みます。実地研修は、実際に喀痰吸引等が必要な利用者のもとで、指導する看護師のもとで回数を重ねるため、受講者の勤め先が実地研修の場を確保することを受講の条件にしている研修があります。青森県の令和8年度の研修も、実地研修先を確保できる事業所を対象としています。
受講料は、登録研修機関がそれぞれの業務規程で定めることになっており(施行規則附則第14条)、受講料に実地研修の指導料が含まれるかどうかも研修機関によって違います。金額は受講を考えている研修機関の募集要項で確認し、あわせて次の点を勤め先や応募先に聞いておくと、自己負担がいくらになるかが見えてきます。
- 受講料を事業所が負担するか、自己負担か。負担する場合、一定期間の勤務を条件にしているか
- 基本研修の受講日を勤務扱いにするか、休日に受けるのか
- 実地研修の指導にあたる看護職員が職場にいるか
資格の取得費用を職場が支援する制度の確かめ方は、資格取得支援がある介護職場の選び方でも整理しています。
求人票で「喀痰吸引」の記載を見たら、何を確かめる?
「研修受講支援あり」「医療的ケアあり」と書かれていても、内容は職場によって違います。登録の有無、対象になる利用者と行為、研修の費用と時間の扱いを、応募前か面接の場で質問して確かめます。
求人票の記載だけでは分からないことが多いため、次の質問を用意しておくと比較しやすくなります。
- 登録の有無:喀痰吸引等を行う事業所として都道府県の登録を受けていますか
- 対象と行為:喀痰吸引や経管栄養が必要な利用者は今何人ほどいて、どの行為を介護職員が担っていますか
- 担当の範囲:夜勤帯に介護職員が行う場面はありますか。そのとき看護職員への連絡はどうしていますか
- 研修の扱い:研修の受講費用と受講日の勤務の扱い、実地研修をどこで受けるかを教えてください
- 手当の有無:認定を受けた後、手当や役割の変化はありますか
医療的ケアを担える職員がいるかどうかは、夜間の体制や利用者の受け入れの幅に関わります。夜勤の人数の決まりは介護施設の夜勤は何人体制?特養・グループホームの法定人員配置基準と求人票の見分け方で、資格に応じた手当の考え方は資格手当はいくら?資格別の金額で確認できます。
なお、喀痰吸引等を担うことに不安がある場合は、そのことを面接で伝えて、担当しない働き方が可能かを確認しても差し支えありません。研修を受けるかどうかは、自分の働き方の希望と職場の体制を照らし合わせて決めることです。
まとめ:研修の種類と、職場の登録・研修の扱いをセットで確かめる
喀痰吸引等研修を考えるときに押さえておきたいのは、次の3点です。
- 第1号・第2号は不特定多数、第3号は特定の利用者が対象。第2号と第3号は、実地研修を修了した行為だけが認定される
- 研修の修了に加えて、都道府県の認定証と、登録を受けた事業所での勤務がそろって初めて業務として行える
- 実務者研修や介護福祉士の養成課程で医療的ケアを学んだ人も、実際に行うには実地研修が必要。費用と受講日の扱いは職場によって違う
医療的ケアに関わる働き方を考えている方は、まず今の職場、または応募を考えている事業所が登録を受けているかを確認してみてください。資格取得の支援がある求人は、介護おしごとさーちの検索ページで「資格取得支援あり」の条件から探せます。研修の申込方法や受講要件は、お住まいの都道府県の喀痰吸引等研修の担当窓口で確認してください。
参考にした一次情報
- e-Gov法令検索「社会福祉士及び介護福祉士法施行規則」(第1条、第24条の2、第26条の3、附則、別表第一〜第三):対象となる5つの行為、研修課程と認定される行為、基本研修・実地研修の時間と回数、登録喀痰吸引等事業者の基準
- 厚生労働省「介護職員等によるたんの吸引等の実施のための制度について」:制度の趣旨、施行時期、対象となる施設・事業所の例
- 東京都福祉局「喀痰吸引等(たんの吸引等)の制度について」(2025年10月17日更新):介護職員が喀痰吸引等を行うための3つの条件
- 青森県「令和8年度喀痰吸引等研修(第一号、第二号研修)について」(2026年4月8日更新):基本研修の講義免除、実地研修先の確保
- 公益財団法人社会福祉振興・試験センター「『実地研修を修了した喀痰吸引等行為』の登録申請について」
