訪問介護の求人を見ていると、「身体介護 時給◯円」「生活援助 時給◯円」と書かれていても、利用者宅から次の利用者宅へ移る時間の給料がどうなるのかは、書かれていないことがよくあります。1日に何件も回る働き方では、この時間の扱いで月の収入が変わります。
この記事の要点は次の3つです。
- 移動時間:事業所と利用者宅の間や、利用者宅から次の利用者宅への移動は、通常の移動にかかる程度の時間であれば労働時間にあたり、賃金の支払いが必要だと厚生労働省の通達で示されています
- 待機・記録・研修とキャンセル:事業所から命じられた待機、義務づけられた記録の作成、指示された研修も労働時間にあたります。利用者のキャンセルで仕事がなくなった場合は、条件によって休業手当(平均賃金の6割以上)の対象になります
- 求人票で確かめること:移動時間の時給、直行直帰、待機、キャンセル時、交通費の扱いは求人票に書かれていないことが多いので、応募前か面接で質問しておくと比較しやすくなります
この記事では、厚生労働省の通達と法令の条文を確かめながら、訪問介護の仕事を探す人が求人を比べるときに使える形で整理します。訪問介護の1日の仕事の流れは訪問介護の仕事内容と1人訪問の流れで紹介しています。
訪問介護の移動時間は、労働時間に入る?
事業所・集合場所・利用者宅の間を、業務のために移動する時間は、自由に使えない時間であれば労働時間にあたります。利用者宅から次の利用者宅への移動も、通常の移動にかかる程度の時間なら労働時間です。
訪問介護で働く人の労働条件について、厚生労働省は平成16年8月27日付けの通達「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(基発第0827001号)で考え方を示しています。通達では、移動時間を「事業場、集合場所、利用者宅の相互間を移動する時間」と定義し、使用者が業務のために必要な移動を命じ、その時間を自由に使えることが保障されていない場合には、労働時間に該当するとしています。
例として挙げられているのは、次の2つです。
- 事業所から利用者宅への移動にかかった時間
- ある利用者宅から次の利用者宅への移動時間
どちらも、その時間が通常の移動に要する時間程度であれば労働時間にあたると考えられる、とされています。訪問と訪問の間が空いていて、その時間を自由に過ごせる場合は、空き時間のすべてが労働時間になるわけではありません。判断は、事業所がどう指示しているかという実態で決まります。
この扱いは、令和3年1月15日に厚生労働省の労働基準局監督課長と老健局認知症施策・地域介護推進課長が連名で出した通知「訪問介護労働者の移動時間等の取扱いについて(周知徹底)」で、あらためて周知されています。通知は、移動時間や待機時間を一律に労働時間として扱っていない事業者がいまだにあると指摘したうえで、これらが労働時間にあたる場合は、事業主が時間を把握・管理し、賃金を支払う必要があるとしています。あわせて、訪問介護の介護報酬は労働時間に対して支払われる賃金を含めた平均的な費用を勘案して設定されているもので、移動時間や待機時間も含めて適正に賃金を支払う必要がある、と説明しています。
なお、自宅から最初の利用者宅へ直接向かう「直行」や、最後の利用者宅から自宅へ帰る「直帰」については、通達の移動時間の定義に自宅が含まれていません。直行直帰の移動をどう扱うかは事業所の取り決めと指示の実態によるため、面接で確かめておきたい点の1つです。
移動時間の時給は、介護をしている時間と同じでないといけない?
同じである必要はありません。移動時間などの時給は、最低賃金を下回らない範囲で、労使の話し合いで決められます。ただし、時給制なら移動時間を含めた労働時間の合計に対して賃金を計算することが前提です。
通達は、時間に応じて賃金を計算する場合、訪問介護に直接従事する時間だけでなく、移動時間などの労働時間を合わせた時間数で賃金を計算するよう求めています。一方で、介護をしている時間とそれ以外の時間の賃金水準は、最低賃金額を下回らない範囲で労使の話し合いにより決めるものとしています。
このため、求人票や労働条件通知書に「身体介護 時給◯円、移動・待機 時給◯円」のように、時間の種類ごとに別の時給が書かれていることがあります。比べるときは、介護の時給だけでなく、移動時間の時給がいくらで、1日にどのくらい移動があるかまで見ておくと、実際の月収に近い数字で比較できます。
交通費は別に考えます。通達では、事業所が実費として支給している交通費やガソリン代は、一般的には労働の対償ではないので賃金とは認められず、最低賃金と比べるときの金額に含めないとしています。交通費が支給されていることと、移動時間の賃金が支払われていることは、別に確かめる必要があります。
計算例:1件ごとの報酬で働く場合の確かめ方
以下は、確認のしかたを説明するための計算例です。特定の事業所の賃金の実例ではありません。ご自分の求人の条件に置き換えて計算してください。
- 1日に3件訪問し、介護の時間が合計3時間、利用者宅の間の移動が合計1時間だったとします
- このうち移動時間が労働時間にあたる場合、この日の労働時間は4時間です
- 1件ごとの報酬で賃金が決まる「出来高払制」の場合、最低賃金法施行規則第2条第1項第5号により、賃金の総額をその期間の総労働時間で割って時間あたりの額を出し、地域別の最低賃金と比べます
同じ日の賃金でも、移動時間を入れて割るかどうかで時間あたりの額は変わります。件数単価の求人を見るときは、1件あたりの金額と合わせて、1日の移動がどのくらいになりそうかを確かめておくと判断しやすくなります。お住まいの地域の最低賃金は、厚生労働省の「地域別最低賃金の全国一覧」で確認できます。
待機時間・記録の作成・研修の時間はどう扱われる?
事業所が急な依頼に備えて待機を命じ、その時間を自由に使えない場合の待機時間は労働時間です。義務づけられた記録の作成や、指示された研修の時間も労働時間にあたります。
通達では、移動時間のほかに次の時間についても考え方を示しています。
- 待機時間:事業所が急な需要に対応するため、事業所などで待機を命じ、その時間を自由に使えることが保障されていない場合は労働時間です
- 業務報告書などの作成時間:介護保険制度や事業所の規定で作成が義務づけられていて、事業所の指揮監督のもとで事業所や利用者宅で作成している場合は労働時間です
- 研修時間:事業所の明示的な指示で受ける研修は労働時間です。指示がなくても、受けないと就業規則上の不利益がある場合や、受けないと業務に具体的な支障が出る場合など、実質的に出席を強制されているときも労働時間にあたります
サービス提供記録やヘルパー同士の申し送り、事業所の会議、同行研修などは、訪問介護の仕事の中で日常的に発生します。これらの時間が給与の計算に入っているかどうかも、時給だけでは見えない部分です。
利用者のキャンセルで仕事がなくなったら、給料はどうなる?
勤務表で働く日と時間帯が決まった後に、利用者のキャンセルを理由に休ませる場合、事業所が別の訪問先を探すなどの努力を尽くしていなければ、平均賃金の6割以上の休業手当が必要になります。
労働基準法第26条は、使用者の責めに帰すべき事由で労働者を休業させた場合、平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払うよう定めています。通達はこれを訪問介護に当てはめ、次のように整理しています。
- 月ごとなどの勤務表で働く日と時間帯が示された後、利用者の利用申込みの撤回や時間帯の変更を理由に休ませる場合、ほかの利用者宅での勤務の可能性を十分に検討したかなど、事業所が最善の努力を尽くしたと認められなければ、休業手当の支払いが必要です
- 事業所が別の利用者宅での勤務など代わりの仕事を用意した場合や、就業規則に基づいて時間帯や勤務日を変更してほかの利用者宅で働いてもらった場合は、休業手当は不要です
- 1日のうち一部の時間だけ休ませた場合でも、実際に働いた分の賃金が1日分の平均賃金の6割に満たないときは、その差額を支払う必要があります
体調の急変や入院による利用者のキャンセルは、訪問介護では避けられません。キャンセルが出たときに代わりの訪問先を割り振るのか、休業手当を支払うのか、事業所としての決まりがあるかを聞いておくと、収入の見通しが立てやすくなります。
登録ヘルパーでも、有給休暇や労働条件の書面はある?
あります。登録型や1か月ごとの契約更新でも、雇い入れから6か月継続して勤務し、8割以上出勤していれば年次有給休暇が付与されます。契約の期間や働く場所などの労働条件は、書面で明示する必要があります。
通達は、訪問介護で働く人の多くを占める、勤務表によって働く日や時間が決まるパートタイムのヘルパーについても、労働条件の明示や有給休暇の付与が必要であることを確認しています。
- 契約の期間の定めの有無と、期間がある場合はその期間を書面で明示すること(労働基準法第15条)
- 1か月ごとの契約更新であることを理由に有給休暇を与えないのではなく、6か月以上継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤していれば付与すること(労働基準法第39条)。週の労働日数が少ない人の付与日数は、1年間に予定されている労働日数に応じて決まります
有給休暇の日数の決まり方は介護職の有給休暇の確認ポイントで、内定後に受け取る労働条件通知書の読み方は介護職の内定後に確認することで詳しく解説しています。
求人票と面接では、何を確かめればいい?
求人票の時給だけでは、移動・待機・キャンセルの扱いは分からないことが多いです。次の質問を用意して、応募前か面接で確かめると、複数の求人を同じ条件で比べられます。
- 移動時間:利用者宅の間の移動時間は労働時間として記録していますか。時給は介護の時間と同じですか、別に決めていますか
- 直行直帰:自宅から最初の利用者宅への移動や、最後の訪問から自宅への移動はどう扱っていますか
- 待機時間:事業所での待機を指示されることはありますか。その時間の扱いはどうなっていますか
- 記録・会議・研修:記録の作成や会議、同行研修の時間は給与の対象になりますか
- キャンセル時:利用者のキャンセルが出たとき、代わりの訪問や休業手当の扱いはどうなっていますか
- 交通費:自転車・バイク・自動車の燃料代や公共交通機関の運賃は、どの方法で支給されますか
質問への答えは、内定後に受け取る労働条件通知書の賃金欄や就業規則で確かめられます。口頭の説明と書面の内容が違うときは、承諾する前に確認しておくと、入職後の行き違いを防げます。日中の時間帯だけで働く訪問介護の求人の探し方は、介護職で日中のみ・日勤だけで働く求人の探し方でも整理しています。
説明と実際の支払いが違うときは、どこに相談する?
働き始めてから、移動時間や休業手当の扱いが説明と違うと感じたら、まず給与明細と労働時間の記録を手元に残し、事業所に確認します。それでも解決しない場合は、勤務先を管轄する労働基準監督署や、都道府県労働局の総合労働相談コーナーに相談できます。
相談の前に、次のものをそろえておくと話が進めやすくなります。
- 労働条件通知書や雇用契約書
- 給与明細(支給項目と労働時間数が分かるもの)
- 訪問の予定表と、実際に訪問した時刻・移動した時間の記録
- キャンセルが出た日と、その日に事業所から受けた連絡の内容
給与明細の支給項目の見方は、介護職の給与明細で見るポイントで確認できます。
まとめ:移動・待機・キャンセルの扱いまで含めて求人を比べる
訪問介護の求人を比べるときに押さえておきたいのは、次の3点です。
- 事業所と利用者宅、利用者宅どうしの移動は、通常の移動にかかる程度の時間なら労働時間で、賃金の支払いが必要。時給は介護の時間と別に決めてよいが、最低賃金を下回れない
- 命じられた待機、義務づけられた記録の作成、指示された研修も労働時間。勤務表が決まった後のキャンセルは、代わりの仕事がなければ休業手当の対象になり得る
- 求人票の時給だけでは分からないので、移動時間の時給・直行直帰・待機・キャンセル時・交通費の扱いを、応募前か面接で質問する
訪問介護の求人を見るときは、まず求人票に移動時間の扱いが書かれているかを確かめてみてください。書かれていなければ、上の質問をそのまま応募先に聞いてみることから始められます。
参考にした一次情報
- 厚生労働省「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月27日付け基発第0827001号):移動時間・業務報告書等の作成時間・待機時間・研修時間の考え方、休業手当、賃金の算定、年次有給休暇、労働条件の明示
- 厚生労働省 労働基準局監督課・老健局認知症施策・地域介護推進課「訪問介護労働者の移動時間等の取扱いについて(周知徹底)」(令和3年1月15日、基監発0115第1号・老認発0115第2号、介護保険最新情報Vol.912):移動時間・待機時間の賃金支払い、休業手当、介護報酬における取扱い
- e-Gov法令検索「最低賃金法施行規則」第2条:出来高払制の賃金を時間額に換算する方法
- e-Gov法令検索「労働基準法」第15条・第26条・第39条:労働条件の明示、休業手当、年次有給休暇
