介護の仕事を続けていて「転職したいけれど、今の職場で積み上げてきた退職金はどうなるんだろう」と気になったことがある方は多いのではないでしょうか。特に、中小企業退職金共済(中退共)や社会福祉施設職員等退職手当共済制度(WAM共済)に加入している職場で働いている場合、転職によって積立がリセットされるのか、それとも引き継げるのかは、次の職場を決める前に知っておきたいポイントです。

先に、要点をまとめます。

  • 中退共は「退職後3年以内」に転職先で再加入すれば、前の掛金納付月数を通算できる制度があります(退職金を請求済みだと通算できません)
  • WAM共済は「社会福祉法人から社会福祉法人への転職」に限り、被共済職員期間を合算できる場合があります。株式会社や医療法人へ移る場合は対象外です
  • どちらの制度も「自動で引き継がれる」わけではなく、退職前後に自分で通算・合算の手続きをする必要があります

ただし、この通算・合算には見落としやすい落とし穴が1つあります。「制度が違う職場」へ転職した場合、通算そのものができないケースがあるという点です。この記事の後半で、どんな組み合わせだと通算できず、どんな組み合わせなら引き継げるのかを具体的に整理します。

介護職の退職金は転職でリセットされる?まず制度の種類を確認する

介護職の退職金制度は勤務先の運営法人によって異なり、通算できるかどうかも制度の組み合わせで変わります。

介護業界で働く場合、退職金に関わる主な制度は次の3つに分かれます。

  • 中退共(中小企業退職金共済):株式会社・医療法人など中小企業向けの国の退職金制度。掛金は事業主が全額負担し、月額5,000円〜30,000円の16段階(短時間労働者は2,000円〜4,000円の特例あり)から選んで積み立てます
  • WAM共済(社会福祉施設職員等退職手当共済制度):社会福祉法人が運営する施設・事業所向けの制度。独立行政法人福祉医療機構(WAM)が運営し、令和8年度の職員1人あたりの単位掛金額は49,500円です
  • 法人独自の退職金制度:中退共・WAM共済のどちらにも加入せず、就業規則で独自の退職金規程を定めている法人

自分がどの制度の対象かは、就業規則や労働条件通知書に記載されているはずです。運営法人が「株式会社」「合同会社」であれば中退共、「社会福祉法人」であればWAM共済であるケースが多いですが、法人によっては両方に未加入で自社独自の規程のみ、ということもあります。まずは自分の勤務先がどの制度に加入しているかを確認することが、通算を考える出発点になります。

制度ごとの相場観をまとめて知りたい方は、介護職に退職金はある?相場と条件で全体像を整理していますので、あわせてご覧ください。この記事では、そこからさらに踏み込んで「転職したときに引き継げるかどうか」の条件を具体的に見ていきます。

中退共は転職先でも通算できる?条件と期限を確認する

中退共は、退職後3年以内に転職先で中退共制度に再加入すれば、前の勤務先での掛金納付月数をそのまま通算できます。

これは中退共制度が「事業主単位」ではなく「被共済者(働く本人)単位」の通算を認めているためです。具体的な条件は以下の通りです。

条件項目内容
通算できる期間退職後3年以内に転職先で再加入すること(平成26年3月31日以前の退職は2年以内)
通算できない条件前の勤務先で退職金をすでに請求・受給している場合
掛金納付月数の要件前の勤務先での掛金納付が12ヶ月以上あること(会社都合の離職の場合は要件が緩和される)
手続き転職先の事業主を通じて「通算の申込み」を行う(自動では通算されない)

つまり、「退職金を受け取ってから転職する」と通算の権利を失うことになります。転職を決めた時点で退職金をすぐに請求するのではなく、まず転職先が中退共に加入しているかを確認し、通算するかどうかを判断してから手続きを進めるのが安全です。

また、中退共制度と、商工会議所・商工会等が実施する特定退職金共済制度との間でも、退職後3年以内に退職金を請求せずにもう一方の制度の被共済者となり、通算の申込みをすることで、退職金相当額を通算できる場合があります。介護業界では中退共に加入する法人が多いですが、転職先が特定退職金共済制度に加入しているケースもゼロではないため、制度名を確認しておくと安心です。

中退共の基本退職金額は、掛金月額(5,000円〜30,000円の16段階)と納付月数の組み合わせで機械的に定まる仕組みです。転職によって納付月数が通算されれば、この積立期間をゼロからやり直さずに済みます。正確な見込額は、中退共が公式サイトで提供している退職金シミュレーションに、自分の掛金月額と納付月数を入力して確認するのが確実です(早見表の数字は年度・掛金月額の組み合わせによって変わるため、この記事では概算の掲載を避け、公式シミュレーションの利用を案内します)。

WAM共済はどんな転職なら通算できる?社会福祉法人どうしが条件

WAM共済は、社会福祉法人から社会福祉法人への転職で、一定の条件を満たした場合に被共済職員期間を合算できます。株式会社や医療法人への転職では対象外です。

WAM共済の合算制度は、中退共とは仕組みが異なります。中退共が「被共済者単位」で個人の掛金納付期間を追いかけるのに対し、WAM共済は「共済契約者(社会福祉法人)間の合意」に近い形の制度で、転職前後の法人が共済契約者として要件を満たしている必要があります。

主な条件は以下の通りです。

  • 転職前・転職後がともに「社会福祉法人が運営する施設・事業所」であること
  • 一定の要件を満たして「合算制度利用申出書」を提出すること
  • 提出のタイミングを逃すと合算が認められない場合がある

合算が認められれば、勤続年数が通算され、退職手当金の計算で使う支給乗率の面で有利になりえます。逆に言えば、社会福祉法人から株式会社が運営する有料老人ホームやデイサービスへ転職する場合は、WAM共済の対象外になり、合算という考え方自体が使えません。この場合は、転職先が中退共に加入しているか、法人独自の退職金制度があるかを個別に確認することになります。

参考までに、WAM公式サイトが示す退職手当金支給額の例(普通退職の場合)は次の通りです。

勤続年数前提となる本俸月額退職手当金
5年20万円49万5,900円
10年22万円114万8,400円
15年26万円269万7,000円
20年28万円572万4,600円

この金額はあくまで本俸月額が上記の水準だった場合の例であり、実際の本俸月額は施設・法人によって異なります。正確な見込額は、勤務先を通じてWAMのシステムで確認するのが確実です。

転職で退職金が「消える」パターンはどんなとき?失敗しやすい組み合わせ

退職金が事実上ゼロからやり直しになるのは、①制度の異なる法人形態間で転職する、②退職金を先に請求してしまう、③通算の手続き期限を過ぎる、の3パターンです。

具体的に見ていきます。

  • ①制度の異なる法人形態間で転職する:社会福祉法人(WAM共済)から株式会社(中退共または独自制度)へ、あるいはその逆へ転職する場合、制度そのものが変わるため通算・合算の対象外になります。これは「手続きを忘れた」のではなく、そもそも制度上つながっていないケースなので、転職先を決める段階で法人形態を確認しておく必要があります。
  • ②退職金を先に請求してしまう:中退共は「退職金を請求していないこと」が通算の条件です。転職が決まった勢いで前の勤務先の退職金をすぐに請求してしまうと、その時点で通算の権利がなくなります。転職先が決まってから、通算するかどうかを判断して手続きする順番が安全です。
  • ③通算の手続き期限を過ぎる:中退共は退職後3年以内、WAM共済も申出のタイミングに要件があります。「そのうち手続きしよう」と先延ばしにしていると、期限を過ぎて通算できなくなることがあります。

一方で、誤解しやすい点として、「同じ運営法人グループ内の別施設への異動」であれば、そもそも退職扱いにならず在職期間がそのまま継続するケースが一般的です。この記事で扱っているのは、あくまで「一度退職して、別の事業主のもとで働き直す」転職のケースです。

具体的なケースで整理すると、イメージしやすくなります。

  • ケースA(通算できる例):株式会社が運営する特別養護老人ホームの関連施設(中退共加入)から、別の株式会社が運営するデイサービス(同じく中退共加入)へ転職。退職後2年目に転職先で再加入し、前職の退職金は請求していなかった → 掛金納付月数が通算され、積立期間が継続する
  • ケースB(通算できない例):社会福祉法人が運営する特別養護老人ホーム(WAM共済加入)から、株式会社が運営する有料老人ホーム(中退共加入)へ転職。制度そのものが変わるため、WAM共済の被共済職員期間は中退共に引き継がれず、中退共では新規加入として掛金の積立がゼロから始まる
  • ケースC(権利を失う例):中退共加入の職場を退職した際、転職先が決まる前に退職金を請求して受け取ってしまい、その半年後に別の中退共加入事業所へ転職。退職金をすでに受給しているため、通算は認められない

ケースBとケースCは、どちらも「本人に落ち度がある」というより、制度の仕組みを知らなかったことが原因で起きやすい失敗です。特にケースCは、転職活動が長引きそうな不安から「とりあえず退職金だけ先に受け取っておこう」と考えてしまうケースで起こりがちです。転職先が決まっていない段階でも、退職金の請求は急がず、次の勤務先の制度が分かってから判断する方が安全だといえます。

社会福祉法人どうしの転職ではWAM共済の合算、株式会社・医療法人どうしの転職では中退共の通算が使え、制度が異なる法人間の転職では通算できないことを示す比較図

法人形態をまたぐ転職を考えている場合、退職金の通算だけを理由に転職先を絞り込む必要はありませんが、「通算できない前提で、転職先の初任給・手当を含めた総合的な条件で判断する」という視点を持っておくと、後悔が少なくなります。転職の判断軸を条件面から整理したい方は、介護求人の比較で失敗しない方法。求人票を見比べる5つの項目もあわせてご覧ください。

通算できたかどうかは、いつ・何で確認できる?

通算の成否は「転職先の中退共加入通知」や「WAM共済の被共済者証」で確認できます。手続き後に自分から確認する姿勢が大切です。

通算の手続きは転職先の事業主を通じて行われるため、働く本人には結果が自動的に通知されないことがあります。中退共の場合、事業主が加入手続きを行うと「退職金共済手帳」または加入通知が発行されるので、そこに前職からの通算月数が反映されているかを確認します。反映されていない、あるいは通算の手続きが取られたかどうか自体が分からない場合は、転職先の総務・人事担当者に「前職からの通算申込みは完了していますか」と直接尋ねるのが確実です。

WAM共済の場合も同様に、合算制度利用申出書が受理されると、被共済者としての地位が転職前後で連続して扱われます。申出書の提出状況は、転職先の法人の事務担当者(多くは施設長や本部の人事労務担当)が把握しているため、入職手続きのタイミングで併せて確認しておくと、後から「実は通算されていなかった」という事態を防げます。

手続きを事業主任せにせず、本人からも一度は確認する理由は、通算の期限(中退共は退職後3年以内)が事業主側の事務処理の遅れによって過ぎてしまうリスクがあるためです。特に、転職先が中退共・WAM共済への加入実績が少ない事業所の場合、担当者自身が通算制度に不慣れなケースもあります。制度を知っている側(働く本人)から確認を促すことで、手続き漏れを防ぎやすくなります。

転職前に何を確認すればいい?チェックすべき3つの窓口

転職前に確認すべきは、①今の勤務先の退職金制度の種類、②転職先の退職金制度の種類、③通算・合算の条件を満たすタイミングの3点です。

具体的な確認手順は次の通りです。

  1. 今の勤務先の制度を確認する:就業規則・労働条件通知書、または総務・人事担当者に「中退共ですか、WAM共済ですか、それとも独自の規程ですか」と確認します。運営法人の登記簿上の名称(社会福祉法人か株式会社か)からもある程度推測できます。
  2. 転職先の制度を確認する:面接や内定後の条件確認の場で、退職金制度の有無・種類を質問します。求人票に退職金の記載がない場合でも、直接確認すること自体は一般的な確認事項であり、印象を悪くするものではありません。
  3. 通算・合算の条件とタイミングを確認する:中退共なら「退職後3年以内・退職金未請求」、WAM共済なら「社会福祉法人どうし・合算制度利用申出書の提出」という条件を、退職前の段階で把握しておきます。手続きは基本的に転職先の事業主を通じて行うため、転職先が決まった時点で早めに相談するのが安全です。

今日ひとりでできる小さな一歩として、まずはお手元の労働条件通知書や給与明細を1枚だけ見返して、「退職金」に関する記載があるかどうかを確認してみてください。記載が見当たらない場合は、次の給与の話をする機会に、人事担当者へ制度の種類だけでも尋ねてみることをおすすめします。

なお、求人票の「福利厚生」欄に「退職金制度あり」とだけ書かれている場合、それが中退共なのかWAM共済なのか法人独自の制度なのかまでは、求人票だけでは判断できないことが一般的です。求人票の表記はあくまで「制度の有無」を示すものであり、通算・合算の可否を判断するには、面接や内定後の条件確認の場で制度名まで踏み込んで確認する必要があります。求人票の他の項目(勤務地・雇用形態・資格要件など)と同じように、「退職金制度あり」という記載も、比較検討のための一情報として捉え、詳細は自分で確認する姿勢を持っておくと安心です。

まとめ:この記事で持ち帰れること

ここまで読んでいただいたことで、次の3点が判断できるようになったはずです。

  • 中退共は退職後3年以内・退職金未請求という条件で通算でき、WAM共済は社会福祉法人どうしの転職に限り合算できるという、制度ごとに異なる引き継ぎのルール
  • 制度の異なる法人形態間(社会福祉法人⇔株式会社等)の転職では、そもそも通算・合算の対象外になるという見落としやすいパターン
  • 転職前に「今の制度」「転職先の制度」「通算のタイミング」の3点を確認しておけば、退職金を請求するタイミングを誤って通算の権利を失うリスクを避けられるという実務上の順番

退職金の通算は転職先を選ぶ唯一の基準ではありませんが、知らずに退職金を先に請求してしまうと後から取り戻せません。求人票の給与・手当条件とあわせて、退職金制度の引き継ぎ条件も転職前のチェックリストに加えておくと安心です。条件を整理したうえで実際の求人を比較検討したい場合は、求人検索から雇用形態や施設形態を絞り込んで求人票を見比べてみてください。介護おしごとさーちは、特定の求人を「あなたに一番合っています」とおすすめしてお繋ぎするサービスではなく、条件に一致する求人の一覧を提示し、比較・検討の材料を提供する検索サービスです。

よくある疑問

中退共に加入していたことを、転職先にどう伝えればいいですか? 面接や内定後の条件確認の場で、「前職で中退共に加入していたので、通算の手続きについて教えてください」と伝えれば十分です。通算の申込み自体は転職先の事業主を通じて行うため、まずは加入していた事実を伝えることが最初のステップになります。

退職金をすでに受け取ってしまった場合、次の転職では通算できませんか? 中退共の場合、前の勤務先で退職金を請求・受給していると、その時点で通算はできなくなります。次の転職先では新規加入として掛金の積立を始めることになります。

社会福祉法人から株式会社の介護施設に転職する場合、退職金はどうなりますか? WAM共済の合算制度は社会福祉法人どうしの転職が条件のため、対象外になります。転職先が中退共に加入していればそちらで新規加入となり、加入していなければ転職先の就業規則に定める退職金制度の有無を個別に確認することになります。

通算の手続きは自分で行う必要がありますか? 中退共・WAM共済のいずれも、手続きは基本的に転職先の事業主(法人)を通じて行います。ただし、事業主が通算の存在を把握していないケースもあるため、対象条件に当てはまりそうな場合は、自分から人事担当者に確認・依頼する姿勢が実務的には重要です。

掛金月額が前の勤務先と転職先で違う場合、通算にどう影響しますか? 中退共の通算は「掛金納付月数」を引き継ぐ仕組みで、掛金月額そのものは転職先での設定に従います。前の勤務先より掛金月額が低い転職先に移った場合でも、納付月数の通算自体は可能ですが、将来の退職金額は転職先の掛金月額に応じて計算されるため、掛金月額の水準も含めて確認しておくとよいでしょう。